前回の記事でも取り上げた、自然な英語表現を目指した辞書サイトの活用法の続編です。
今回は英語の名詞を例に挙げてお話しします。
英訳しているときに、この名詞は可算か?不可算か?と迷った経験はありませんか?
もちろん、具体的な種類を念頭に置いた文脈では、ビールだってチーズだって可算扱いされるように、「通常は不可算、特殊なケースでは可算」の名詞も多くあります(例えば辞書Collinsでは、「variable noun」と種類分けされています)。
今回は、そういった特例ではない、「普通はどっち?」の語感を文脈とともに確認する方法をご紹介します。
T.C. | 特許翻訳・チェッカー
特許翻訳歴そろそろ20年。技術系ライティングの理論と、特許出願人の現場での実践的ノウハウを学びました。翻訳者チームの強みを生かし、強い権利の実現を後押しする特許翻訳を提供すべく日々奮闘しています。お客様から喜びの声をいただくと疲れも吹っ飛びます!【資格】知的財産翻訳検定1級(電気・電子工学)、知的財産管理技能士検定2級、実用英語技能検定1級、工業英語検定1級
似て非なるもの?powderとparticle
辞書でお互いの定義に使われているような類義語を使い分けるために、可算/不可算を確認するケースを、類義語 “powder” と “particle” を例に考えてみましょう。
対応する日本語としては「粉、粉末、粉体、粒子…」などが思い浮かびますが、この2単語をどう使い分ければ良いでしょうか。
「自分が訳そうとしているのと同じような意味で使われている英文例を見つけたいな」というときに、私が利用しているのは「ライフサイエンス辞書(Life Science Dictionary)」のコーパス機能です。
このサービスを提供するLSDプロジェクトの紹介ページに「広範な生命科学(ライフサイエンス)の学問領域で使われる専門用語、対訳、用法、各種の統計情報を独自の手法により分析・データベース化」と書かれているように、このライフサイエンス辞書は生命科学分野の英語論文抄録などがベースとなっており、査読された良質な英文例に出会える確率が高いという利点があります。
ここでは、次の2種類の意味で訳語候補としてどちらがより適切か、またその際に可算/不可算のいずれで使うのが自然なのか調べてみましょう。
(1) 乾燥したpowder/particle
(2) 細かいpowder/particle
powderの用例を検証
まずは検索窓にpowderと入力して「検索」をクリック、または[Enter]キーを押します。
表示された画面上部の「1語前でソート」をクリックすると、赤字の検索語を中心に、以下のように表示されます。
(1)「乾燥した~」の訳語候補としてpowderはどうでしょうか。dryやdriedに続いて使用されている英文を探してみましょう。
コーパス検索結果300文のうち、12文に “dried powder”(”freeze-dried” などの複合修飾語で形容されたものも含む)や “dry powder” の用法が確認できます。そのうち、可算扱いされているのは “in dried powders” の1例のみで、その後に続く “obtained from different red fruits” という記載から、具体的ないくつかの種類を念頭に置いた特例の表現だと理解できます。
ここから、“dried/dry powder” という訳語候補が通常の文脈では不可算名詞として使うのが自然であることが分かります。
次に、(2)「細かい~」の訳語候補としてpowderはどうでしょうか。「細かい」を示す形容詞として使われそうなfineやsmallに続く用例はこの検索結果には見つけられません。訳語候補として採用できないのかもしれないな、と仮定しつつ、次の候補を探ります。
particleの用例を検証
同様にして、particleが使われている文例を見ていきます。
(1)の候補の検討材料になりそうなdryやdriedに続く例は見つかりません。
一方で、(2)の候補として採用できるfineに続く例が3文あります。
また、検索結果全体を眺めると “particles” と複数形表記が圧倒的に多いことが分かります。
ここから、可算名詞としての扱いで “fine particles” と複数形での使用が自然であることが分かります。ただ、これだけでは検索された用例がやや少ないと感じますので、ここに挙げられた用例をヒントに、Google検索などを組み合わせてみることをお勧めします。
なお、青色表示されている左側の数字は、その文が使われている英文抄録にリンク付けされていますので、前後の文脈を見ながら用法を確認することもできます。
まとめ
ここまで見てくれば、類義語 “powder” と “particle” の用法の違いが理解できたのではないでしょうか。大切なのは、一足飛びに答えを見つけようとするよりも、生きた用例の中からその単語の語感を学ぶことです。
単に「辞書で定義を調べる」だけでは、その結果を忘れて後日また同じ検索をしてしまうことにもなりかねません(これも翻訳あるあるですが・・・)。語感をつかみさえすれば使える知識として定着しますし、その語感に合致した英文をふと見つけると、「これこれ!!!」と嬉しくなること請け合いです。
なお、ライフサイエンス辞書のコーパス機能は、「1語後でソート」をクリックして、名詞や動詞プラス前置詞などのコロケーション(語と語の相性)を調べたい場合にも重宝します。自分なりの使いこなし術を確立できれば、英訳をブラッシュアップしたい翻訳者の強い味方になってくれます。ぜひ、辞書検索時に活用してみてくださいね。
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