「今使っている特許調査会社をこのまま使っていて大丈夫なのか?」
そんなご相談をよく伺います。
私もメーカー知財部で業務を行っていた頃に、同じ疑問を持っていたことを思い出しました。
そこで今回の記事では、今特許調査を受ける側となっている私であれば、「こんな不安ポイントがあるときは特許調査会社を見直します!」という内容をお伝えしたいと思います。
更には、「見直せば○○な問題は解決できます」という点も踏まえた内容で書きたいと思います。
Y.T. | 特許調査 サーチャー
精密機器メーカーで9年間、特許技術者として様々な製品の特許・意匠の出願・権利化や、他社特許対応、そして模倣品対策を通じて、多くの発明者と接してきました。現在は自社のサービスとして特許調査や特許分析を行っています。【資格】知的財産管理技能検定2級、AIPE認定 知的財産アナリスト(特許)
特許調査会社を見直した方がいい5つのパターン
1. 打ち合わせにサーチャーが同席しない
これは「依頼内容の詳細が正確にサーチャーに届いたか不安になる」パターンです。
このような場合は、打ち合わせにやってきた調査会社の担当者が解釈した内容を更にサーチャーに伝え、今度はサーチャーがそれを解釈する、伝言ゲームです。
打ち合わせの様子を動画に撮ってそれをサーチャーが観るならば、もう少し精度が上がるかもしれません。しかし、その打ち合わせの場でサーチャーから質問ができていないのです。サーチャーが知りたいであろう細かい内容が漏れていることになります。
これでは不安ですよね。仮に適切に調査が行われていたとしても疑心暗鬼にもなります。
打ち合わせには必ずサーチャーが同席する必要があると私は考えています。せめて実際にその案件に関わる管理者サーチャーだけでも同席すべきです。
このようにサーチャーが会議に同席してくれる特許調査会社であれば、この不安なパターンは解消されます。
2. 打ち合わせでサーチャーが理解できたのか分からない
打ち合わせの場にはサーチャーが同席してくれた。けれど、「そのサーチャーが技術内容や調査方針を理解してくれたのかイマイチ掴めない」そんなパターン、結構ありませんか?
依頼する側が説明した内容に相槌を打ってくれる。あるいは、言葉を換えて復唱してくれると「ああ、伝わっているな」と思えて安心できます。しかし、意外とこのような復唱スキルが見られないパターンがあります。これも不安ですよね。
サーチャーの復唱スキルが見られないパターンがなぜ発生するのか。それは、サーチャーは頭の中でいろいろなポイントや注意点を、ときには知らない技術の理解を頭の中で整理すると同時に依頼者にヒアリングする必要があるからです。なかなか難しいスキルです。 そのため、復唱スキルのあるサーチャーが同席する特許調査会社であればもちろんこの不安は解消されます。あるいは、複数のサーチャーが打ち合わせに同席することでヒアリングをサポートするような進め方をする特許調査会社も良いと思います。
3. 先行技術調査で、新規性しか調査されていない
「進歩性も含めて特許調査してもらえるものだと思い特許調査会社に依頼した。けれども、いざ納品物を見ると新規性しか調査されていなかった」
そんなパターンがあるかと思います。実際に私もそのようなご相談を意外と多くいただきます。
もちろん、先行技術調査(出願前調査)で新規性のみを調べることを目的とすることもありますので、それ自体が間違っている訳ではありません。しかし、特許調査を依頼する際の目的が「新規性だけではなく進歩性についても調査を行いたい」という場合にはイマイチポイントとなってしまいます。
その特許調査会社と取引を始める際に進歩性まで調査することを確認できれば良いのでしょうが、依頼者側と特許調査会社側の双方が「当然ここまでの調査ですよね」と思いつつ明確な確認がなされなかった場合はすれ違いとなってしまいます。そして、先行技術調査の場合は、調査内容と調査料金が一律で設定されているような場合が多いので、そのままの仕様で依頼を継続することになっているのではないでしょうか。調査内容と調査料金を再設定してもらえることもあるかと思いますので交渉の余地があるかと思います。ただし、再設定が難しい場合は、進歩性まで調査してくれる特許調査会社を探すのが良いと思います。
4. 「該当結果なし」としか報告されない
特に無効資料調査でイマイチポイントなるのがこのパターンではないでしょうか。
無効資料調査を依頼した際の調査結果の報告が「無効資料として使える先行文献が無かった」というものです。
難しいですよね。文献が無いこと証明するのは不可能です。「悪魔の証明」と言われるやつです。確かにそれは理解できます。
ただ、お金を出して調査を依頼する側としては、「無かった」とだけ報告されると困ってしまいます。「本当に無かったのか?」と。
このような場合、イマイチを解消するためには、
①検索式の段階では、どのような範囲が検索されているのかが明確である必要があります。
特許調査会社の作成する検索式は長く複雑です。いろいろな要素が複雑に掛けられたり足されたりして、調査されている範囲が不明確と感じられることがあるかと思います。この検索式の不明確を解消することが重要です。例えば、「式に使われている分類は何を示すものなのか」、あるいは、「この分類は使われていないのはなぜか」。また、「この論理式は何をヒットさせる意図なのか」。不明瞭なまま調査が行われ納品まで行ってしまうと、「無い」という報告を見たときに「本当に無かったのか?」となってしまいます。逆に検索式の意図が明確に把握できていれば、「ここまで調べて無かったのだから調査としては十分だろう」という判断が下せる訳です。
②報告書の段階では、「この文献は無かった」というだけではなく、「ここまでの文献ならあった」という調査履歴のようなものを残すことも良いです。例えば、無効理由に使えないような文献であっても、「調べた範囲ではここまでのものが一番近い文献でしたよ。そこまでスクリーニングでは見てありますよ」という履歴を残します。結果が変わらないとしても調査履歴があれば、十分に調査が行われたことが見え、どこで「無い」の線引きをしたのかが分かるため、調査結果の納得に繋がります。また、依頼者であればその調査履歴の情報に基づいて無効ロジックを考え付く可能性にも繋がります。 上述したようなことまで納品物で行ってくれる調査会社であれば、このイマイチポイントは解消されます。
5. パテントマップをもらったが、次に何をすればいいのか分からない
「パテントマップの作成を依頼し、キレイなマップは描いてもらったがこの後どうすればいいの?」
そんなパターンがあります。
パテントマップはある。また、そのパテントマップの活用方法までは提案してもらった。だが、マップから読み取れるのは「いったいどんな状況なのか?」あるいは「状況は分かったが次に何をするのか?」そういった経験はないでしょうか。私はよくそんなことを思っていました。
パテントマップがあれば後は自社でどう決めるか、というフェーズに移ります。ただし、それであれば無料でもある程度のパテントマップは入手できるため、その無料のマップを活用すれば良いだけです。それでも特許調査会社に依頼するのは次のような理由があるためです。
パテントマップでは色々な種類のマップを作成して多角的に分析するため、全体としてどのような状況であるのかを知ることはなかなか難しいものです。また、そこから何をすべきなのかを知ることは更にハードルが高いのではないでしょうか。そして、これらの難しい部分が一番重要なポイントであるため、依頼者は特許調査会社にパテントマップ作成を依頼するのではないでしょうか。
「このような状況であった」
であれば次に実行するのは、
「このパテントポートフォリオを完成させよう。であればこの技術の出願を増やす」
「この分野の出願が競合他社に対して遅れているからその出願に注力する」
「この分野はどの競合他社も参入してないが将来トレンドになる。いまのうちに開発を進めて参入だ」
「この大学と組めば技術開発の面でシナジーが見込めるため、交渉を考えよう」
マップから読み取れる状況の解説と、その状況を踏まえて実行する内容の提案までしてもらえる。そのような特許調査会社であればこのイマイチポイントは解消されます。
まとめ
当然、「良い調査ができない場合」つまり「サーチ能力が低い」場合は見直した方が良いです。「サーチ能力が高い」ということは最低限必要な条件です。つまり、調査仕様に沿った調査を行えることや最適なスタイル・進め方を提案できることは基本的な条件です。しかし、そういった調査スキル以外の要素として「納得感」や「満足感」を得ることも依頼者側としては必要な条件ですよね。
一方でこのような「納得感」や「満足感」というのは直接的な調査スキルではないことが多いので、このような依頼者側の「納得感」や「満足感」に繋がる「答え」を出してくれる特許調査会社に出会うのはなかなか難しいのです。
ちなみに、私が今所属している会社では「納得感」や「満足感」に繋がる「答え」の提供を意識したサービスを提供しています。お気軽にご相談ください。